最近の将棋界では、藤井聡太氏が最年少の名人と史上初の全主要タイトルを制覇し、前例のない成果を挙げています。同様に、羽生善治氏は7つの異なるタイトルで永世称号を獲得し、2018年には国民栄誉賞を受賞しています。
この記事では、各タイトル戦のランク、賞金額、主催団体、永世称号の条件などを詳しく解説していきます。
将棋の主要タイトル戦についての解説
プロ棋士が参加する主な大会は「棋戦」と呼ばれ、これには八大タイトル戦のほか、NHK杯や朝日杯などの公式トーナメントも含まれます。
最も注目されるこれらのトーナメントは「八大タイトル戦」として知られており、竜王、名人、王位、王座、棋王、叡王、王将、棋聖の8つのタイトルから成り立っています。それぞれのタイトル戦では、現タイトル保持者と挑戦者が五番勝負や七番勝負を行い、勝者がタイトルを獲得します。
タイトル保持者は、自らの名前の後にタイトル名を冠し、「〇〇竜王」などと呼ばれるのが一般的です。竜王戦と名人戦では、特にランキングに基づく年間の昇降級制度が設けられています。
将棋の主要タイトル戦の重要度と序列基準
八大タイトル戦の序列は、賞金額および対局料の合計で決定されています。タイトルの順位は、竜王、名人、王位、王座、棋王、叡王、王将、棋聖という順に配置されています。
特に竜王と名人のタイトルは重視され、その長い歴史と権威により高い評価を受けています。特に他のタイトル戦に比べて名人戦は重要視され、しばしば最も尊敬される地位と見なされています。
竜王戦
- 設立年度:1988年
- 競技期間:10月から12月
- 推定賞金額:4320万円
- 試合形式:7番勝負(4勝したプレイヤーが優勝)
- 主催者:読売新聞社
名人戦
- 設立年度:1935年
- 競技期間:4月から6月
- 推定賞金額:2000万円
- 試合形式:7番勝負(4勝したプレイヤーが優勝)
- 主催者:朝日新聞社、毎日新聞社
王位戦
- 設立年度:1960年
- 競技期間:7月から9月
- 推定賞金額:1000万円
- 試合形式:7番勝負(4勝したプレイヤーが優勝)
- 主催者:ブロック紙3社連合(北海道新聞社、中日新聞、西日本新聞)
王座戦
- 創設年度:1983年
- 開催期間:9月から10月
- 推定賞金額:800万円
- 試合形式:5番勝負(最初に3勝を挙げたプレイヤーが優勝)
- 主催者:日本経済新聞社
棋王戦
- 創設年度:1975年
- 開催期間:2月から3月
- 推定賞金額:600万円
- 試合形式:5番勝負(最初に3勝を挙げたプレイヤーが優勝)
- 主催者:共同通信社
叡王戦
- 創設年度:2017年
- 開催期間:4月から6月
- 推定賞金額:300万円から600万円
- 試合形式:5番勝負(最初に3勝を挙げたプレイヤーが優勝)
- 主催者:不二家
備考:叡王戦は、2015年に一般棋戦として開始され、2017年に正式なタイトル戦に昇格しました。これは八大タイトル戦の中で最も新しいタイトルです。
王将戦
- 設立年度:1951年
- 開催期間:1月から3月
- 推定賞金額:300万円
- 試合形式:7番勝負(4勝を先取したプレイヤーが優勝)
- 主催者:スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社
棋聖戦
- 設立年度:1962年
- 開催期間:6月から7月
- 推定賞金額:300万円
- 試合形式:5番勝負(3勝を先取したプレイヤーが優勝)
- 主催者:産経新聞社
竜王と名人、他のタイトルとの区別
将棋界では、他の8大タイトルと比べて竜王と名人のタイトルは特別な扱いを受けています。これらのタイトルを保持している棋士は、「竜王・名人」や単に「竜王」、「名人」という形で特に優先して呼ばれることが一般的です。
昇段の際にも、他のタイトルよりも竜王と名人のタイトルは重要視されており、竜王のタイトル獲得者は1期で八段、2期で九段への昇段が可能で、名人の場合は1期で直接九段に昇段する特権があります。他のタイトルは、1期で七段、2期で八段、3期で九段へと昇段します。
また、日本将棋連盟が発行するアマチュアの段位証明書には、竜王と名人のタイトル獲得者が連盟の会長とともに署名することが慣例となっています。
将棋に「十段」のタイトルはあった?
囲碁界において高く評価される「十段」というタイトルがありますが、将棋にも同様のタイトルがあったのかという疑問があります。実は、1962年から1987年まで、将棋界には「十段」というタイトルがありました。
読売新聞社によってこの十段戦は主催されていましたが、1988年に十段戦を終了させ、新たに竜王戦を創設しました。この変更の際、読売新聞社は竜王戦に高額の賞金を設定し、名人戦よりも上の序列に位置づけるよう要求しました。
その結果、竜王戦が最上位のタイトルとされ、名人戦はそれに次ぐ位置に設定されました。
将棋の八大タイトル戦と永世称号の規定
永世称号とは、特定のタイトルを一定期間保持した棋士が引退後もそのタイトル名を永続的に名乗ることが許される制度です。以下に、各タイトルごとの永世称号、それを獲得するための条件、およびその資格を持つ棋士の名前を示します。
- 竜王:
- 永世称号名:永世竜王
- 獲得条件:連続5期または通算7期
- 資格保持者:渡辺明、羽生善治
- 名人:
- 永世称号名:永世名人
- 獲得条件:通算5期
- 資格保持者:木村義雄、大山康晴、中原誠、谷川浩司、森内俊之、羽生善治
- 王位:
- 永世称号名:永世王位
- 獲得条件:連続5期または通算10期
- 資格保持者:大山康晴、中原誠、羽生善治
- 王座:
- 永世称号名:名誉王座
- 獲得条件:連続5期または通算10期
- 資格保持者:中原誠、羽生善治
- 棋王:
- 永世称号名:永世棋王
- 獲得条件:連続5期
- 資格保持者:渡辺明、羽生善治
- 叡王:
- 永世称号名:ー(規定なし)
- 獲得条件:ー
- 資格保持者:ー
- 王将:
- 永世称号名:永世王将
- 獲得条件:通算10期
- 資格保持者:大山康晴、羽生善治
- 棋聖:
- 永世称号名:永世棋聖
- 獲得条件:通算5期
- 資格保持者:大山康晴、中原誠、米長邦雄、羽生善治、佐藤康光
このように、各タイトル戦の永世称号はその重要性と棋士の成就を長く称えるためのものです。
総括
将棋界の八大タイトル戦は、その歴史と威厳によってプロ棋士にとって非常に名誉ある目標とされています。竜王と名人のタイトルは特に、他のタイトルと比較して高い評価を受けており、昇段基準や称号使用においても特別な地位を占めています。
1988年には十段戦が廃止され、新たに設立された竜王戦がタイトル戦の最上位に設定されました。一方で、名人戦はその伝統と長い歴史からかつては最高位に位置していました。
各タイトル戦は固有の開催時期、賞金設定、対局回数を持ち、それぞれの新聞社が主催する豪華な賞金付きの競技が行われます。これらのタイトルを獲得することは、棋士の段位進行に直接影響し、竜王や名人のタイトルは特に最短で最高段位に到達する手段とされています。
また、永世称号は特定のタイトルを一定回数以上獲得した棋士に授与され、引退後もその称号を名乗る権利が与えられます。この称号は棋士のキャリアにおける最高の成果を象徴し、将棋界内での彼らの不動の地位を保証します。
以上の点から、八大タイトル戦は単なる技術の競い合いを超えて、棋士のキャリアと評価に深く関わる重要な要素として位置付けられています。