サーカスでは、コミカルな動作と演技で観客を楽しませるピエロが不可欠です。
しかし、ピエロという言葉を聞いて、クラウンやジョーカーと混同している人もいるかもしれません。
これらの用語が言語の違いから来ていると思われがちですが、実はピエロ、クラウン、ジョーカーはそれぞれ異なる起源と意味を持ち、全く異なる存在です。
この記事では、それぞれのキャラクターがどのように異なるか、そしてその歴史的背景について詳しく解説します。
クラウンの役割とその語源について
サーカスにおいてクラウンは不可欠な存在ですが、その背景や語源についても知っておくと興味深いでしょう。
まず、「クラウン（clown）」という言葉を広辞苑で調べると、主に「道化師」という意味があります。
ただし、「クラウン（clown）」と「クラウン（crown）」では意味が大きく異なります。
「crown」は「冠」や「王冠」を意味し、これが名前の由来にもなっています。
例えば、瓶ビールのキャップが「クラウン」と呼ばれるのは、キャップが王冠の形に似ているからです。
中世のサーカスでは、馬術やその他のパフォーマンスが行われており、これらの演目には準備や片付けのための時間が必要でした。
この隙間時間に観客が退屈しないように、道化師がその役目を果たすことが求められました。
クラウンは観客の注意を引きつけ、退屈させないためにわざと拙い演技をしたり、観客をからかったりすることで演目間の時間を埋める重要な役割を担います。
そのため、クラウン役を演じるには高い演技力が必要とされ、技術的に優れたパフォーマーがこの役割を務めることが一般的です。
クラウンの語源とその役割の歴史
クラウンと呼ばれる道化師は、もともと演目の休憩時間中に観客を楽しませるために活動していました。
ここでは、なぜこれらのパフォーマーが「クラウン」と称されるようになったのかその由来を探ります。
「クラウン（clown）」という言葉は直接的には道化師を意味しますが、この言葉の語源は「clod」、すなわち「土塊」に由来します。
この言葉はやがて「田舎者」を指すようになり、田舎者の振る舞いが貴族に滑稽に見えたことから、「滑稽な人」としても使われるようになりました。さらに時間が経つにつれ、「のろま」や「ばか」、「おどけ者」といった意味合いも加わっていきました。
クラウンという名前が一般的に道化師を指す用語として定着したのは、18世紀のイギリスのサーカスが舞台です。
当時、サーカスの演目間に登場する役者たちが自らを「クラウン」と呼び始め、これが広く受け入れられるようになりました。
この名称はその後も使われ続け、今日に至るまで一般的な呼称として定着しています。
ピエロの役割と特徴について
ここでは、サーカスにおける重要なキャラクターであるピエロに焦点を当てて詳しく解説します。
ピエロはクラウンと同様に、その派手な衣装と白塗りのメイクで観客を引きつけ、転びや走り回るなどの滑稽な動作で会場を盛り上げます。
ピエロ（フランス語で「ピエロー」、pierrot）とは、元々イタリアのコメディア・デラルテにおける召使い役ペドロリーノから発展したキャラクターです。
このキャラクターは、白い顔料と赤い口紅を使用し、ゆったりした服と大きな襟、丸い帽子を特徴としています。
現在、このスタイルは一般的にサーカスの道化師、つまりクラウンとしても知られており、「悲しきピエロ」というイメージでも広く親しまれています。
表現スタイルにおいて、ピエロは主に無言で行動によって観客を楽しませるのに対し、クラウンは会話を交えて直接的に観客と交流します。
この行動と交流の違いが、ピエロとクラウンの主な区別点となっています。
ピエロの起源と進化について
「コメディア・デラルテ」はイタリアに起源を持つ即興劇団であり、ピエロというキャラクターはこの劇団に端を発しています。
この劇団で特に知られているのはアルレッキーノ、非常に人気のある道化師です。
アルレッキーノの相棒であるペドロリーノは、控えめで無口な召使い役を務めていました。
ペドロリーノは白いメイクを施し、活動的な演技でアルレッキーノを支えながら、舞台での飛び跳ねるパフォーマンスを披露して観客を魅了しました。
このペドロリーノが、現代のピエロの直接の語源と見なされています。
時間が経つにつれて、「Pedrolino」という名前は「Pierrot」という形に変わり、その後フランスへと伝わりました。
フランスではさらに進化を遂げ、「ピエロ」として広く知られるようになりました。
この名前とキャラクターの変遷を経て、ピエロは今日でもサーカスや公演において中心的な役割を果たしています。
ピエロとクラウンの違いについて
ピエロとクラウンはどちらもサーカスの重要な道化師として活躍していますが、彼らのパフォーマンススタイルと外見には顕著な違いが存在します。
パフォーマンススタイルの違い
クラウンは観客との直接的なやり取りを得意とし、その場の状況を活かして巧みな話術やジョークで笑いを誘います。
対照的に、ピエロはほとんど無言で、身体を使ったコミカルな動きや、転んだり跳ねたりするアクションを通じて観客を楽しませます。
この無言でのパフォーマンススタイルは、ピエロの元となったペドロリーノの内気で控えめな性格から来ています。
外見の違い
外見においても、ピエロとクラウンの間には重要な違いがあります。
ピエロの顔には涙のメークが施されており、これは表向きの笑いに隠された内面の悲しみを象徴しています。
これに対して、クラウンの顔には涙のメークがありません。この違いは彼らが持つキャラクターの深さを反映しています。
- クラウン：顔に涙メークがなく、コミュニケーション能力が高い。
- ピエロ：顔に涙メークがあり、表現は主に無言で行われる。
これらの違いを把握することで、サーカスやパフォーマンスの鑑賞が一層豊かなものになるでしょう。
日本におけるピエロの役割と誤解について
日本で「ピエロ」という言葉は広く使われていますが、しばしば話術を駆使する道化師（クラウン）もピエロと誤って認識されることがあります。
この用語の使われ方には独特の背景があります。
サーカスが日本に導入されたとき、多くのクラウンがピエロとして知られるキャラクターを演じていたため、日本ではこれら二つの異なる役割を区別せずに「ピエロ」という言葉で呼ぶようになりました。
このような誤解は時間が経つにつれて定着し、サーカスの人気が高まるにつれて、道化師を一般的にピエロと呼ぶ習慣が根付きました。
結果として、日本では「ピエロ」という言葉が本来の意味とは異なる使われ方をされるようになりました。これは、文化的な翻訳や解釈の過程でしばしば見られる現象です。
【詳解】ジョーカーの意味とその使用例
これまでにピエロとクラウンの違いを解説しましたが、この機会に「ジョーカー」というキャラクターについても説明します。
「ジョーカー（joker）」とは、ジョーク（joke）を言う人、つまり冗談や洒落、戯れを好む人を指す言葉です。
ジョーカーという語はサーカスとは直接関係がないものの、日常生活でユーモアを提供する人を表す際にも使われます。
クラウンと似た役割を担うことからこの名前が用いられることがあります。
特に映画業界では、ジョーカーという言葉が象徴的に使用されています。
たとえば、2019年に制作されたアメリカ映画「ジョーカー」では、バットマンの宿敵として登場するジョーカーはクラウンのような白塗りのメイクをしているキャラクターとして描かれています。
ピエロとクラウンの特徴と役割の概要
この記事では、サーカスにおけるピエロとクラウンの違いを詳しく説明しました。ここではその主要なポイントを再確認してみましょう。
ピエロとクラウンの共通点
- 両者とも、サーカスの演目で観客を楽しませる重要な役割を担っています。
- 彼らのパフォーマンスにはコミカルな動作と滑稽な振る舞いが共通しており、観客を引き込みます。
- どちらも派手な衣装と白塗りのメイクを特徴としています。
クラウンの独自の特徴
- 観客と直接対話しながら笑いを引き出すのが得意です。
- 顔のメイクに涙は含まれていません。
ピエロの独自の特徴
- ほとんど無言で、身振りだけで観客を楽しませるスタイルを採用しています。
- 顔には悲しみを象徴する涙のメイクが施されています。
これらの特性を把握することで、サーカスを観る際にそれぞれのキャラクターが持つ役割や魅力をより深く理解し、楽しむことができます。
